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一年間慣れ親しんだ教室、クラスメイトに適当に別れを告げ、3階へと続く階段を上る。
上りきってすぐが『3ー1』。
新しい……俺の教室。
開け放たれた教室の引き戸から半分顔を出し、そっと中を見渡してみると。
集まりつつある新たなクラスメイト達の姿に僅かに走る緊張。
知ってる顔。
知らない顔。
……あいつ、まだ来てねぇのな。
ひとつ息を吐き、視線を下げかけた瞬間。
「ひーろーきーーっ!」
教室の奥から轟音のごとく放たれた俺の名前に静まり返る室内。
顔を引き吊らせながら、その方向へ目を向ける。
一足先に到着していたミツが、窓際最後尾の2席を難なく陣取り、誇らしげに手を振っていた。
はー、と大きく息をつき、周囲を見やると俺に突き刺さる痛い視線。
咄嗟に壁側へと顔を反らし、足早にミツのもとへと駆け寄った。
「おい。」
ドスンと乱暴に鞄を卓上に乗せた後、ひとつ前の席につくミツを睨み付ける。
「お前、クラス替え早々、俺を浮かせんなっ!」
苛立つ俺をニヤニヤと見つめた後、俺の机に頬杖をつき、背せら笑うミツ。
「大丈夫ー!寛貴、クラスどころか学校中で浮いてるからー!」
「………………。」
それのどこが大丈夫なんだよ!?
ふざけたミツの発言に、口から漏れる……大きな溜め息。
粗雑に椅子を引いた後、そこに腰を下ろした。
どこにでもいる至って目立たない平凡な一高校生だった俺は。
あいつと出会ったことで……。
一躍有名人と化していた。
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