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釈然としないまま、成果を上げられずに返ってきてしまったメニュー表にしぶしぶ手をかけたところで、漸くあいつの唇がその理由を述べてきた。
「オレ……。帰っておまえの手料理、食べたいから。」
「…………。」
ぽかんと顔を上げる俺の瞳に、片手を頬について見上げてくるあいつの姿が映る。
少し意地悪げな表情。
でも、その眼差しは……ドキッとするくらい優しくて。
そんな顔で見つめてこられたら。
頭を占めていた邪な願望も一瞬で吹っ飛んで。
お前が望むならメシでも何でも作ってやりたいって。
掃除も洗濯も全部やっても苦じゃないって、思ってしまう。
……家政婦、じゃねーし。
好きだから。あいつの喜ぶ顔が見たいだけだし。
「……な、なるべく、8時ちょうどに上がれるようにするから。」
待っててと見返すと、カタンと席を立つあいつ。
「頑張れよ」ともう一度俺の頭に触れてから、ドリンクバーの設置場所へと遠ざかっていった。
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