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「キィ! 目を開けてくれよ! キィ!」
白く息が伸びる汚染地では、シンシンと雪が降り白く染まっていた。
まるでモノクロフィルムのように白で構成される世界の一点だけ、鮮やかな赤が染み付いている。
力なく腕を垂らす姫伊を抱えた柚は涙の流れる瞳で覗き込む。
もう小さいとは言えないほどに成長した姫伊は、女の柚一人では支えきれないほどだった。
戦闘要員ではない姫伊だが、それでも少しはと日本刀を手にしたのだった。
柚がいくら声を掛けたところで、姫伊の目は開かない。
血にまみれた姫伊を胸の中に強く抱き締めた柚は、行くよ、と一言呟く。
ゆっくり立ち上がり、そして背後にいる姫伊の仇に振り返る。
「……貴様らだけは許さん」
左腿のナイフを抜くと、小さく呟く。
「キィ、お前の唯一の失敗は、こんな奴らに懐いたことだ」
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