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部屋の中に飛び込むと、そこには白いベッドの上で身体を起こしている詩織の姿があった。
俺を見ると詩織は。
詩織は、やっぱり。
いつものように。
「コウちゃん」
笑うんだ。
俺は2人の看護師の間をすり抜け、窓際に詩織の両親が立っているにも関わらず、詩織を両腕で抱きしめた。
本当は髪をなでてやりたいけれど、それができない。
もどかしい。
でも。
「……ごめん、詩織、ごめん。俺、もう、お前にひどいことしかできんと思って、もうこれ以上いっしょにおったらいけんと思った。俺、お前に何も言ってやれん。してやれん。アホやし、これからもバンド優先するじゃろうし、じゃけど……」
「コウちゃん、ほんまにアホやなあ」
詩織がクスッと笑った。
「私、コウちゃんが歌ってくれたらええ。そんでときどき帰って来てくれたら、それで良かったんや」
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