第6話 輪島浩二編③

19/35
前へ
/35ページ
次へ
 セイタは俺から目を逸らさないで、笑った。 「ええよ」  その日のうちに俺は、タローとヒサにも、手が使えなくなったことを伝えた。これからは歌一本でやっていきたいということも。  タローとヒサは驚いていたが、俺が歌うのであれば問題ないと言ってくれた。  木曜日は予定通り、レーベルの担当者と会い、正式に契約することが決まった。  デビューアルバムの製作が始まった。  ギターやパソコンを触ることはできないが、俺も歌詞を考えたり、アレンジを考えたり。  毎日充実している。  家のない俺は、セイタの部屋に泊まらせてもらっている。詩織が退院して、新しい家が決まるまでという約束で。 「お前がおるせいで、女呼べんわ」と笑っていたが、実際のところ、セイタは誰とも付き合っていない。  理由は聞かなかった。  その代わり、俺は事故に遭う前以上に、音楽に打ち込んだ。  詩織にも優しく接するように努力した。  それがきっと、セイタのためにもなると思って。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

776人が本棚に入れています
本棚に追加