776人が本棚に入れています
本棚に追加
セイタは俺から目を逸らさないで、笑った。
「ええよ」
その日のうちに俺は、タローとヒサにも、手が使えなくなったことを伝えた。これからは歌一本でやっていきたいということも。
タローとヒサは驚いていたが、俺が歌うのであれば問題ないと言ってくれた。
木曜日は予定通り、レーベルの担当者と会い、正式に契約することが決まった。
デビューアルバムの製作が始まった。
ギターやパソコンを触ることはできないが、俺も歌詞を考えたり、アレンジを考えたり。
毎日充実している。
家のない俺は、セイタの部屋に泊まらせてもらっている。詩織が退院して、新しい家が決まるまでという約束で。
「お前がおるせいで、女呼べんわ」と笑っていたが、実際のところ、セイタは誰とも付き合っていない。
理由は聞かなかった。
その代わり、俺は事故に遭う前以上に、音楽に打ち込んだ。
詩織にも優しく接するように努力した。
それがきっと、セイタのためにもなると思って。
最初のコメントを投稿しよう!