第6話 輪島浩二編③

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【大学病院まで来い】  病院?  胸がざわついた。  俺はまだ濡れているデニムをもぎ取り、脚を突っ込んだ。黒いダウンジャケットを持って、なんとか戸締りをしてA駅に向かって走った。  大学病院といったら、N駅の近くだ。事故に遭ったとき、世話になった場所だ。  なぜ、そこに来いなんて言うんだ?  電車は座席が空いていた。けれど、座る気になれなかった。  N駅から病院まで走った。  不思議と身体は軽い。だが、口のなかはカラカラに乾いている。息切れをしながら、白い壁の建物を目指した。  セイタは病院のエントランスの前に立っていた。  俺を見つけるなり、ズカズカ近付いてきて、問答無用で一発頬を殴ってきた。  痛くはなかった。衝撃が走っただけ。  倒れないように両脚で踏ん張って、目を真っ赤にしているセイタを見た。
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