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『良かったね』
『やっぱコウちゃんはすごいなあ』
『……でも、やっぱ、見たかったよ。私も、コウちゃんが歌うところ』
詩織はいつでも笑っていた。なのに、オレンジ色の光のなかで最後に見た詩織は。
「……お前、ほんまにアホじゃ」
泣いていた。
「詩織はなあ、いっつも俺に相談しよったんじゃ。ずっと言わんかったけど、俺、お前が俺に連絡せん間も、お前がどうしよるんか詩織から聞いとったんじゃ。メチャクチャやっとるお前に、心底むかついたりもした。でもな、詩織が、それでもお前のこと好きじゃったから。どうしたらコウジが元に戻るじゃろうかって、そればっかり……じゃったのにお前は」
セイタは顔を上げた。頬を真っ赤にして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「……俺、しばらく、お前の顔見とうない。けど、木曜は絶対来いよ。詩織は、お前の歌が好きやったんじゃけえ」
俺はなんとかセイタに鍵を返した。セイタは鍵を受け取ったあと、手の甲で涙を拭いて、病院の敷地から出て行った。
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