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「そうそう、昨年の花火大会の日、済まなかった。デートの約束していただろ? あれ潰したの俺だから。直接君に会って、謝りたかったんだ」
「いえ、大丈夫です。逢うのが潰れるのなんて、日常茶飯事なので」
「所轄にいる知り合いに、強引に頼まれてしまって、断れなかったんだ。現場に疎いキャリアと叩き上げの刑事が揉めて、仕事が捗らないからと泣きつかれて。その衝撃吸収剤に、水野君を抜擢したんだ。どこにでも溶け込めるのが、彼の技だから」
メガネを上げながら饒舌に語る関さんに、俺は首を傾げながら苦笑いをした。
「どこにでも溶け込めるのは分かります。刑事らしくないっていうか」
「まぁな。それを計算した上で、水野君は刑事を演じていると思う」
「刑事を、演じる?」
「水野君の知能指数は、実はかなり高い。俺や山上よりも上レベル」
「関さんよりも上って、一体……」
「とりあえず、普段の仕事ぶりを見るといい。特番のはモザイクがかかって、誰か分からない仕様になっていたが、これは撮影したままのものが、キレイに見られるから」
俺を宥めるように肩を叩いて、再生ボタンを押してくれた。時間にしたら、15分くらいだったろうか。
そこには俺の知ってる、普段のドジってるところがまったくなく、むしろきびきびと仕事を格好良く捌きまくる姿が映っていた。
カメラマンが追いつけないスピードで疾走する水野とか、デカ長さんに的確な意見をしている顔。事件の中で目まぐるしく行動している、水野の姿がそこにあった。
「誰ですか、これ――」
ぽつりと呟いてしまった言葉に、目の前に腰掛けていた関さんが立ち上がり、ゆっくりとした足取りで窓辺に向かうと、外の景色を眺める。
「面白い質問をするな、君は。それは普段の、マトモな水野君の姿だが」
「こんな風に、真面目に仕事をしているなんて、全然知らなかったです……」
「君が絡むと、途端にオカシクなるから。どっちが、彼の本来の姿なのやら」
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