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ひとつだけ、翼に言えないことがあった。これは俺にとって、乗り越えなければならない儀式だと思ったから。ずっと傍で見守ってくれたあの人との、永遠のさよなら――
それは初夢を見た、3日後のこと。夜勤明けで朝ご飯を食べてから、いつものようにベッドに横になったんだ。
(目が覚めたら、翼が勤務している派出所に顔を出してあげよう)
一緒に食べる晩ご飯は、何がいいかなぁと考えている内に、すとんと眠りについた。
気がついたら捜査一課の、見慣れた職場風景が目の前に展開されていて、うげぇと思わざるを得ない。さっきまでそこにいたのに、何を好き好んで、職場の夢を見なきゃならないんだよ……
げんなりしつつ、手にしているファイルを眺めてみた。事情聴取に使うこれで、誰かを取り調べしなきゃならないことが分かったので、思いきって取調室の扉を開け放ってみる。
そこにいたのは――
「やっと来た。遅いぞ水野!」
聞き覚えのある特徴的なハスキーボイスに、体がびくんと竦んでしまった。
「山上……先輩っ」
彼の姿を見たのは、初夢を見た3日前のこと。だけどその姿は、平安時代の雅な衣装を身に着けていたし、現代のものじゃなかったから、そんなに衝撃がなかった。
だけど今、目の前にいる山上先輩の姿は、亡くなったときの格好をしていて、実に気だるげにパイプ椅子に座っている。
嫌な予感しかしない――山上先輩の声が聞こえる夢を見たあと、リアルでは面倒くさい事件が起こったり、デカ長に大目玉を食らったりと、ろくなことが起こらないから。
姿を見たとなるとこれは、生命の危機なのでは……まさに、お迎えに来たみたいな!?
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