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そんな風に強請られたら、顔を上げざるおえないじゃないか――
奥歯を噛みしめながら恐々と顔を上げた俺を、嬉しそうな表情を浮かべて眺める。
「おいおい、黙り込むなって。さっきも言ったろ、これが最後だって。お前の声、聞かせてくれ」
(これが最後なら、言ってしまってもいいだろうか。だってこれがチャンスなんだ、俺が思っていた本当の気持ち……)
一瞬だけ天井を見てから、山上先輩の顔を凝視した。自分が生きてる間忘れないように、じぃっと見つめる。
はじめて心の底から愛した彼の顔を、絶対忘れないように――
「山上先輩は大バカ者です! 俺と約束したのに……一緒に生きるって約束したのに、ひとりで逝ってしまうなんて」
「お前をこの手で殺して、僕も死ぬと思っていたから。他の誰かに殺られるのは、どうしても見たくなかったんだ」
「だからって、あんな風に自ら進んで、俺の前に出ることないじゃないですか。残された俺が苦しむこと、分かっていたでしょう?」
今まで自分の中に燻ぶっていた感情を、思いっきり山上先輩にぶつけてしまった。俺の気持ちを聞いて、心を痛めるだろうなぁと思ったけれど、ぶつけずにはいられない。
「何だか思い出すな。水野にファイルで頭を殴られたこと。すっごくショックだ」
そんなことを言いつつも、どこか嬉し気な山上先輩の顔に、肩の力が抜けてしまう。俺の本音を聞いて素直に喜ぶ姿に、これ以上怒れない。
「どこかで分かっていたんだよ。水野とは赤い糸が結ばれていないって。無理矢理手繰り寄せた、僕たちの赤い糸が切れてしまったら、お前は違う誰かと恋に落ちるだろうってさ。それを、どうしても見たくなかったんだ」
ときどき、どこか諦めたような目をして俺を見ていたのって、そういう理由だったのか。
「山上先輩と付き合っていながら、他の誰かと恋に落ちるなんて、あり得ないことなのに。それって、俺の愛し方が足りなかったっていうことですよね……」
「いいや、お前は十分に僕を愛してくれたよ。しっかりと伝わっていた。これは僕のワガママなんだ」
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