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触れると突き抜けてしまうことが分かっているのに、俺に向かって腕を伸ばし、ぎゅっと抱きしめてきた山上先輩。半透明に映る体を同じように抱きしめ、彼のぬくもりを懸命に探してしまった。
「僕と離れてから、随分と時間が経ってしまったな。だけど水野は強くなった」
「貴方がいなくなって、すっごく苦しみましたよ。死にたくなるくらいに」
「何を言ってるんだ。お前の傍には、支えてくれる人たちがいるじゃないか」
「それは分かっていますけど……山上先輩はもう、俺を支えてくれないんですね?」
今までは自分の存在を夢の中という空間の中、声で知らせながら、俺に危機が迫ることを教えてくれた。
「僕はもう必要ないだろ。政隆の傍には、しっかりとした奴がついているじゃないか」
触れられないのに、俺の頭を何度も撫でてくれる。その仕草だけで、胸が締め付けられるように苦しくて――
「達哉さんっ……」
思わず下の名前で呼んでしまった俺を見て、ちょっとだけ顔を歪ませたけど、直ぐに柔らかい笑みを浮かべた。
「とりあえず待ってるから。お前が死んだ時、ハゲててデブでどうしようもないオヤジになっていても、迎えに行かなきゃならないからな」
「あ――」
それって山上家の墓前で、翼が頼んだ言葉じゃないか。
放り出すように俺の体から手を離し、背中を向ける。潔すぎるその姿に縋りつきたくなったけど、両手に拳を作って、何とかやり過ごした。
ここで縋りついたら、山上先輩が離れられなくなると思ったから。この人を開放してあげなければと、悟ってしまった自分がいた。俺だけを愛する達哉さんを、閉じ込めてしまってはいけないんだ。
無鉄砲で何をするか想像できない山上先輩だからこそ、自由にしてあげないと。
「覚えておいてくれ。どこにいても殺したいくらい、お前を愛してるってこと」
「絶対に忘れません。肝に銘じます」
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