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俺の言葉を聞いて顔だけで振り返り、満面の笑みを浮かべたまま取調室のドアから、軽やかな足取りで出て行った。その姿に見惚れていた次の瞬間、金縛りから解放されたように、ベッドから体を起こす。
「……今の、なに!?」
驚きついでに、自分の部屋をキョロキョロと、意味なく確認してしまった。よく分からないけれど、自分の周りにある空気というか雰囲気が違う気がした。忌々しいというか、禍々しい感じのものが消えて、澄んだ空気に入れ替わったというか。
「山上先輩が……俺の傍から、いなくなったっていう証拠なのかな」
俺が突きつけた文句を受け入れるみたいに笑って、これが最後になると分かっていながら、寂しいのひとことも言わず、あっさりと去って行った。
あまりにもあっさりしすぎて、涙すら出やしない――
山上先輩らしいといえばそうなんだけど、お蔭で気づかされたことがあったよ。取調室から出て行く貴方の大きな背中を見たから、それが分かった。
(今度は俺が、大事な人を守る番なんだって)
こんなドジな自分が、愛する人をきちんと守り切れるか、不安が尽きないけれど、山上先輩が言ってくれた「強くなったな」って言葉を信じて、頑張ってみるから。
「そうと分かれば、とっとと翼のところに行って、影から見守ってやらなきゃね!」
いつもやっていることなれど、気合いの入り方が、ひと味違うんだ。
布団を足で蹴飛ばして飛び起き、いそいそ着替え始めた。使命感に燃える俺を、天国にいる山上先輩だって止められないだろう。
貴方が残してくれたものを胸に、これからも精進します。山上先輩の命令は、絶対だから――
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