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呆れ返った関さんの声にかぶさるように、パソコンからリポーターの声がした。
『今日は一日密着取材させて頂き、有り難うございます。最後に少しだけ、質問してもよろしいですか?』
『はい、どうぞ』
『水野警部補のオフは、何をして過ごしているのでしょう?』
『日頃の疲れを取るべく、自宅でしっかり休養してます』
パソコンの中で、ふわりと笑う水野の顔を、白い目で見つめた。
オフの日は決まって、公園前派出所の傍にある電信柱に隠れて、張り込みしてるだろう、お前はっ! 矢野巡査の一日をウオッチングとか言って、某アニメの主人公を見守るお姉さんみたいに、電信柱に張り付いて、逐一俺の行動を見張ってるクセに。
『それでは最後の質問。水野警部補のその仕事に対する情熱は、どこから沸いてくるんですか?』
マイクを向けられた水野は緊張した面持ちになり、ちょっとだけ考え込んだ。
『そうですね……。亡くなった先輩から刑事として、仕事に向き合う姿勢を学びました。自分はそれを託されたので、初心を忘れず事件に向き合っています。その先輩が教えてくれたように、後輩にも伝えていけたらなぁと思いますね』
「まったく、マトモすぎる模範解答だな。型破りな捜査をする山上から、何を学んだんだか」
ため息をつき、呆れ返った関さんがこっちを見る。
「山上先輩はすごかった――としか俺は聞いていないので、さっぱり分からないんですが」
「そうだな……色で例えるなら山上が黒で、水野君が白。最短距離で被疑者を追い詰める山上に対して、理詰めで被疑者の心理を読み、裏をかく捜査をする水野君。いいコンビだったよ、実際に。器物破損やその他の迷惑行為で、始末書量産だった山上が水野君と組んでから、行動に無駄がなくなり、事件を早期解決していたからな。勿論、始末書の枚数も激減。3係の雰囲気も良くなっていった」
メガネの奥の瞳を細め、懐かしそうに語る。それに対し、俺はどんな顔をしていいか分からなかった。
「あの山上を懐柔し、伝説の刑事として名を馳せた水野君を、周りは期待している。だから薦めてみたんだ、警部昇任試験――」
「何か……すごい話ですね」
「試験を受ける基準も満たしているし、頭もいいんだ。受ければ合格間違いなしなのにな。かなりの実力があるクセに、そこまで階級にこだわらず、あえて積極的に昇任試験を受けない、水野君の気持ちが俺は分からない」
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