ラストファイル3:伝家の宝刀

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「逢えば分かる。お前、パクられるなよ」    いつもおふざけ半分の上田先輩が、えらく真面目な顔して言うもんだから、変に緊張してしまった。  高鳴る心臓を押さえ、ノックして取調室に入る。  ――逢えば分かる――  その言葉の意味が、一瞬で理解できた。入ってすぐに目に飛び込んできたのは、山上先輩にソックリな人物。  思わず、ひゅっと息を飲む。  高鳴っていた心臓が、一瞬で静かになった。その人のまとっている空気が、俺の体を瞬間冷却させる。  パーツ本体は似てるけど、持っているオーラが全然違っていた。まるで、山上先輩をマネキンにしたみたい。  涼しげな一重まぶたで俺を見る、その眼差しも氷のようだ―― 「水野、警部補ですね」  感情のこもっていない、淡々としたハスキーボイス。これから何が行われるのか、まったく分からなかった。 「あ、はい。初めまして……」 「初めましてという、感じではないだろう? 私の顔を見て、かなり動揺しているじゃないか。警察庁から来た、山上警視正です。改めて初めまして」 「山上先輩のお兄さん、ですよね?」  山上先輩と付き合い始めたときに、母親違いの兄がいると聞いていた。嫌味な上にねちっこくて、性格が相当歪んでいるヤツだと、すっごくイヤそうに話をしていたっけ。  そんな予備知識があるもんだから、警戒せずにはいられない――  そんな俺を見て、口元だけで笑う山上警視正。目が全然笑っていないのが、更なる恐怖心を煽りまくった。 「ふぅん、これが噂の水野警部補」  値踏みするかのように、頭の先から足先まで、ジロジロ見てくれる。  ふぅんのイントネーションが、山上先輩と同じだけど、全然ときめかないのは、冷たい眼差しをしているからだろう。 「そんな所に突っ立っていないで、掛けてくれないか。君とはじっくり、話がしたかったんだ」 「はぁ、失礼します……」  おどおどしながら向かい側に座ろうとした瞬間、何気なく机に置いた右手を、いきなりぎゅっと掴まれた。 「ひっ!」 「この手で毎月、うちのお墓を掃除しているんだってね。きっと達哉は、喜んでいると思うよ」  その言葉に呆然とし、固まった俺の右手に指を絡めようとしたので、思いっきり振りほどかせてもらう。
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