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――異様に、冷たい手……まるで、蛇に絡みつかれるのかと思った。
右手を後ろに隠し、その気持ち悪さをこっそりと、背広の裾で何度も拭う。
「その様子だと達哉から私について、何か聞いているみたいだな。君には拒む権利なんて、始めからないんだよ」
やっぱり兄弟だ。権力で俺を何とかしようと、目論んでいるのが分かる。
「いいね、その目。そこに惚れたのか、達哉は」
――そうやって抵抗すればする程に、僕を煽るのが分からないのかな――
不意に蘇った山上先輩の言葉に、内心動揺してしまった。山上警視正の言葉と、どことなくリンクするのは、声が似てるから? それとも……
「大丈夫だ。とって食ったりはしないから。それに人の目があるところで不埒な行為をするほど、私もバカじゃない」
言いながら顎で目の前にある、マジックミラーを指す。
「見えないプレッシャーが、そうだな……ふたり分くらいだろうか、感じるね。うちの伝説の刑事に、キズをつけてくれるなってさ」
――誰かが、見守ってくれている――
こういうことをするのは、デカ長と関さんだろうか。お陰で随分と、落ち着くことが出来た。
小さいため息をついて、渋々山上警視正の向かい側に、改めてゆっくりと腰掛けた。
「達哉が生きてる間に、一度君とは話がしたかったよ。よくあんな問題児と付き合っていられるなと、不思議に思ったしね」
「……そうですか」
「君は知らないだろう? 達哉は高校時代、男漁りしまくって問題になり、表向き親の都合ってことで転校扱いになったけど、自主退学させられてね。挙句の果てに大学時代は、ヤクザの息子と駆け落ちまでした、ツワモノなんだよ」
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