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想像以上の破天荒な山上先輩の過去を聞いて、思わず笑ってしまった。
「なぜそんな風に、笑っていられるんだい?」
意外だという目で、俺を見る。
はじめて彼が、感情をあらわにした瞬間だった。
「笑ってしまって、すみません。何か、山上先輩らしいって思ってしまって」
「君はこの話を聞いて、失望しないのか?」
「そんなことで、失望する理由はありません。山上先輩から複雑な家庭環境の話を、いろいろと聞いていたので、何となくですがその行動のワケ、分かるんですよ」
「男漁りに、ヤクザの息子と駆け落ちだぞ。自分の欲望を、満たすだけの行動じゃないか」
その言葉に俺は、ふるふると首を横に振る。
「表面だけ見たら、そうかもしれません。でもそのワケはきっと――必死になって捜していたんです。自分だけを、心から愛してくれる人を。愛にとても、飢えていた人でしたから」
「死者を美化したい気持ちは分かるが、身内になってみろ。いつも問題を起こす達哉に、父や私が難儀していたんだ」
「彼なりにそうやって困らせて、血の繋がりのある家族と、交流したんじゃないんですかね。好意に関して感情を表現することが、極端に不器用でしたし……」
そう言うと、山上警視正は苦笑いしながら、両腕を組んだ。
「なるほど、ね。家族以上に理解している君を守るために、その身を挺した。ということなのか。達哉に守られた君が、残された資料を使い捜査して、大した苦労もせずに、賞を戴いたワケなんだ」
確かに、山上先輩がひとりで頑張っていた仕事に比べたら、俺は大した苦労をしていなかったと思う。
「否定はしません。ちゃっかり、賞を貰いましたから」
その中でも俺は苦しんだ。愛していた山上先輩を盾にしてしまったことについて、何度悔やんだか――
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