ラストファイル3:伝家の宝刀

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 そんな俺を身内である山上警視正に責められるのは、いた仕方のないことだと考え、膝に置いた両拳に、ぎゅっと力を入れる。 「正直者だな、水野警部補は。ますます欲しくなった。警察庁に来ないか?」 「申し訳ないですが、ここで仕事がしたいので、そちらへは行けません」 「まったく、正直者で頑固。刑事採用試験のときといい今回の話といい、即決で断ったのは君くらいだよ。さてここでの仕事を、どんな手で奪ってやろうか――」 「奪わないでくださいっ! 俺はどうしても、ここで仕事がしたいんです!」  お願いなんかしたくなかったけど、パイプ椅子から立ち上がり、山上警視正に向かって、しっかりと頭を下げた。 「そんなに必死なのは、達哉がここで仕事をしていたから? それとも――公園前派出所にいるノンキャリアの警官を、首を長くして待っているからだったりする?」  下げた頭を上げずに、ぎゅっと奥歯を噛みしめる。今、顔を上げたらきっと、すべてを悟られてしまいそうだ。 「君がこちらに来られるよう、どこかに飛ばしちゃおうか。人当たりが良さそうだし、離島辺りで上手くやっていけるんじゃ――」 「彼にっ! 矢野 翼に、手を出すのだけは止めてください! 俺の事情に彼を巻き込むのだけは、本当に勘弁してくださいっ」 「へぇ、水野警部補の大事な彼は、矢野 翼っていうのか。公園前派出所にはノンキャリアの新人、二名いたんだけどね。どっちだろうと悩んでいたから、助かってしまった」  がーっ! 何やってるんだよ……俺の身辺を入念に調べ上げ、絶対に分かっていることについて、自らの発言で確証させてしまったじゃないか。 「大事な彼の事を考えるのなら、どうすればいいか分かるよな。悪い話じゃないんだ。警部になって、ウチに来なさい」
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