Recipe.07

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  ……まだ、クレームブリュレのブームは続いてるんだろうか? 久々に食べるソレ。 口に広がる甘さより、ココロに広がる苦さ。 何だろうなぁ、これ。 「はるちゃーん。これ、何個買う?」 「あ、6個ぉ」 不意に、耳に響いたのは知ってる名前を呼ぶ声と、ソレに応える知ってる声。 え? 「6個ぉ?多すぎじゃない?」 「え?でも、私、最低でも2個は食べるもん。これ」 「マジで?」 「マジで」 その声の方向に視線を向ければ、はると、その隣に知らないオトコの姿。 はるのカッコは、やっぱりスカートで。 「はるちゃん、そんなに食べてよく太らないね?」 「何でだろうね?」 「もう少し太って丁度いい位なのにね?」 「ねー?」 優しそうな雰囲気。 喋り方も、どこかまったりしていて柔らかい。 そっか。あれが、はるの選んだ、新しいオトコか。 「……浅野さん?」 「ん?」 カフェスペースには目もくれない二人が、買ったクレームブリュレを手に店を出て行く。 それが視界の端に映って、小さく息を吐き出した。 「あ、やっぱ、何でもないです」 「何?」 「いいえ。……食べましょ?」 言われて口に運んだスプーン。 広がる味は、先刻よりも苦く感じた。 その苦さが、ジワジワとココロにまで染み込んでいく。 苦いと苦しいって、そう言えば、同じ漢字だよな。 何だろ?コレ、苦いのか、苦しいのか、……どう表現すればいいんだろうな。 「やっぱり、私じゃダメですか?」 地下鉄駅の手前。 人通りの多いその場所で、潤んだ目で俺を見上げる咲山。 「え?」 「……私、結構、頑張ったんですけど、……やっぱり、ダメなんですね」 そう笑う目には、今にも零れそうな涙。 「咲山、」 「浅野さん、いっつも、違うヒトの事、考えてるんですもん」 「っ、」 キレイな丸い雫が、静かに零れ落ちる。 「好きなんですよね?あのヒトの事」 「……あの、ヒト?」 「前に、ここで会ったヒト。妹さんじゃないですよね?」 「あ、」 思わず、唇を小さく噛む。 動いたココロの疼きを、別の痛みで誤魔化そうとした。 「も、いいです」 「……、」 「私、頑張りましたから。……それでもダメだったんなら、仕様がないですもん」 違う。 はるを好きだと、ソレは否定すべき言葉。 でも、ソレは音にならなくて。 音に出来ない理由は、流石に自分でも解った。  
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