Recipe.07

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  「私の我儘に付き合ってくれて、……有難うございました」 「……、ごめん。でも、有難う」 言った俺に見せたのは、本当に可愛い笑顔で。 本当。 こんなに可愛い子に好きって言われて、断る奴の気が知れないと思う。 「浅野さん!」 「ん?」 別れ際、呼び止められて、 「フラれたら、私が拾ってあげますから!」 そこまで言ってくれる子。 それなのに、ココロは揺れなくて。 「ありがと」 「……はい」 その理由は、一つ。 ……俺、はるを好きなんだな。 避けていたソレ。 間違っても抱くべきじゃない、感情。 はるへの感情は、飽くまで下心の無い愛情で。 下心だけなんて、以ての外だけど。 恋愛感情だって、……ダメだろ? 何だよ、今更。 違う。 今更じゃない。 ギリギリで誤魔化してた。 前に孝博が言ってた、あの甘いカラの手前で、ソレを砕く事に怯えてたのかもしれない。 いつもあの砕ける音にこみ上げてきた感情は、砕きたい自分の欲望。 最っ悪だな。 ダメだ。 はるを裏切る訳にはいかない。 それだけは、絶対にダメだ。 はるがアイツと付き合ってるなら、きっと、はるは俺ん家には来ない。 その間に消そう。 一生モノの友達だ。 絶対に、ソレだけは砕きたくない 大切にしてきた。これからだって、大切にしたい相手。 大丈夫だ。 俺の恋心なんて、はるを失う事に比べれば、どうって事ない。 こんな恋心なんて、いっそ粉々に砕ければいい。 * * * 家に帰って、ずっとやめてた煙草に火を点ける。 そう言えば、はるに怒られてやめたんだっけな。 あぁ、本当、しんどいな、コレ。 俺の生活の何もかもに、はるが絡んでる。 家の中のあちこちに、はるのモノが転がってる。 「うっめぇな。煙草」 苦さが丁度いい。 ジワリジワリと蝕んでいく感じは、……この恋心にも似てるけど。 吐き出す紫煙が、空気に溶け込む。 同じ様に、このココロも一緒に溶け込んでしまえばいい。 見えなくなってしまえばいい。 「……、このタイミングかよ」 それなのに、着信を知らせる携帯画面に表示される、はるの名前。 今、一番、聞きたくない声かもしれない。 「……もしもし」 『あれ?ごめん、寝てた??』 「こんな早く寝ねぇよ」 『だよね?……でも、何か、声変だよ??』 些細な声の変化にも気付く。 それだけの時間を築いてきた。 大事な、友達。  
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