Recipe.07

5/5
前へ
/49ページ
次へ
  絶対に、失いたくない存在。 「……どした?」 『え?あぁ、あのさ、キミの家に私のCD無い?』 「CD?」 『そう。Dolceのアルバム』 あぁ、そう言えば、7月頃から同じCD流れっぱなしだったな。 「あー。あるある。青いジャケットのだろ?」 『それそれ!良かった。やっぱり、キミん家だったぁー』 こいつ、Dolce好きだもんなー。 ファンクラブ入ってるし。 「何だよ?CDがどした?」 『紗良が聴きたいって言うから』 「……あー」 『初回限定版だからさ、それ。通常版に入ってない曲入ってんの。……あ、ごめん。ちょっと待って』 ふと、電話越しに聞こえる、オトコの声。 ハッキリ聞き取れない程度の声で、電話の向こう、交わされてる会話。 無意識に時計に目をやる。 少なくとも、赤の他人が部屋に居る様な時間じゃない。 と言うか、かすかに聞こえる声は、確実に先刻の店で見たオトコの声。 こみ上げる、苦さ。 肺を侵す煙草の様に、広がる感情。 『ごめん。キミ』 「……いや」 『……、キミ?』 怪訝な声のはるに、苦笑。 ばれない様に小さく深呼吸して、何でもない声を作る。 「で?CDどうするって?」 『あ、うん。……明日取りに行きたいから、もし、出掛けるなら、解るとこ置いておいて欲しいなと思って』 出掛ける予定は、ない。 でも、今、この部屋にはるを入れたくは、ない。 「……明日、出掛けるから。帰りにお前ん家寄る」 『え?いいよ。取りに行くから』 「いいよ。俺も、そっちに用があるだけだから」 少し、時間が欲しい。 『解った』 「夕方くらいに、届ける。出掛けてたら、郵便受けに入れとく」 『夕方は、家に居る』 「ん。じゃあ、明日な」 『うん』 明日、このCDを渡して。 その後、しばらく距離を置きたい。 その時間で、 この恋心を消してみせるから。 [Next]
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1857人が本棚に入れています
本棚に追加