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泣き腫らした眼で仕事に行くのは、ちょっと嫌だ。
明日一日あれば、とりあえずは、眼の腫れ位なら何とか出来る筈。
大丈夫。
ちゃんと、笑える。
ちゃんと、祝福してるフリを、する。
キミの前で、だけは。
20時25分。
とうとう、チャイムが鳴る。
深呼吸をして、気合を入れなおす。
いつも通り。そして、笑顔で。
呪文みたいに、ココロの中で何度も何度も唱えて、ドアを開けた。
「……、」
「ちょっと!?」
声を発するより先に、頭を掴まれて押し戻される。
挙句、大きなため息。
「何なのよ!?」
「お前、いい加減、自分のサイズを考えろ」
「何がっ!」
「その角度で、そのカッコは見えるつってるだろーがっ!!」
言われて、自分の胸元を確認。
身長同様、成長する事を忘れてるらしいソレが視界に辛うじて入りはするけど。
「別にいいわよ。どーでも」
「良くねぇよ!」
予定とは大分違った、当たり前過ぎるいつもの会話に思わずため息。
「……ったく。いつまで続くんだよ。そのカッコ」
「うっさいな。飽きるまで続くのよ」
まぁ、今更だ。
本人目の前にして、今迄培ってきた言葉の応酬の種類を変えられる筈もない。
「早く飽きれよ」
「何?」
「別に」
わざとなんじゃないかって位大きなため息を吐いて、キミの手からCDを入れてあるらしい紙袋が渡される。
「どーも」
「いいえ」
そこで、ふと気づく。
視界に入る筈の、キミの車が見当たらない。短時間の路駐に支障がある道路では無いから、あの辺に停めてある筈なのに。
「……キミ、歩いて来た?」
「ん?あぁ」
私を送る時は、絶対に車使うのに。
「ふーん。……じゃあ、上がってく?」
「…………」
絶対に断られるであろう申し出を、あえてしてみれば、
「そーだな。……麦茶でも飲ませて貰おうかな」
「あれ?」
「何だよ?」
「……いや、うん。どーぞ」
何故か、承諾された。
あれ?
私、わざわざ、自分の首絞めたんじゃない??これ。
いや。
でも、彼女が居る状況下で友達とは言え、女の家に上がりこむヤツじゃないし。
って事は、これから付き合う事になる報告を受けるの??
それとも、まさか相談される訳じゃないよね?
今迄、キミの恋愛相談なんて受けた事ないわよ!?
「……あー、コレか」
「は?」
「いや。……前に慎と孝博が来た時に、オンナの匂いがする。つってたの」
オンナの、匂い??
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