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サフィスは城内の掃除を一段落させることにした。
雪の城という名前が付いてはいるが、もとはアムルタの王族が避暑地の滞在先として建てたもので、それほど大きな建物ではない。しかし、ひとりで掃除をするには、十分過ぎるほど広い。
入口を入ると、すぐに円形のメインホールがあり、その中心に賢者をかたどった彫刻の噴水がある。
サフィスは、噴水のへりに腰を下ろし、なんということもなく噴水の水をすくってみる。季節は初夏だったが、水にはまだ締め付けるような冷たさがあった。
手の水気をはらい、ぐいっと伸びをして天井を見上げる。メインホールは天井まで吹き抜けの大空間になっていて、はるか高み、掃除もできないほどの高さに明かり取りの窓がある。
窓から差し込む光が、ただでさえ白い石の壁をより一層白くてらしている。その光の角度から、昼までにはもう少しあるなと、ぼんやりそんな事を考えていた。
キヌズ
衣擦れの音で、サフィスは斜め後方から老魔術師が近づいて来ていることに気付いていた。
万にひとつも無いことだが、老魔術師がこのままどこかに通り過ぎてくれることを願った。
だが、案の定…
「サフィス様、少しよろしいかな?」
しずまりかえったホールに、場違いとも思えるような元気な声が響いた。
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