【右腕の男】

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家の前に誰か居る。 「……蘭花。」 会いたくて声が聞きたくて仕方なかった蘭花が目の前に居た。 蘭花は慌てた様に俺に荷物を取りに来たんだと告げた。 ……そう…だよな。 戻って来てくれたんじゃないかと一瞬考えてしまった。 そんな訳ないのに。 蘭花は俺に会う気はなかったんだ。 俺の仕事中に来てポストに鍵を入れるつもりだったんだから。 封筒に入れられた合鍵を押し付ける様に渡された。 ……もうここには来ないって事だよな。 それでも、やっぱり話したかった。 少しでもいい。 話がしたかった。 足早に帰ろうとする蘭花に思わず叫ぶ。 「…蘭花!待て!」 それでも振り返る事なく蘭花は俺の前から消えたんだ。 合鍵の入った封筒を握りしめ、自分の言ってしまった言葉を後悔するばかりだった。 ……蘭花。 …もう…ダメなんだよな。 家に入りソファーに座った。 仕事に戻る気がしない。 ……こう言うのがダメなんだよな。 蘭花が一番嫌がる事だよな。 ちゃんと仕事は仕事でしないといけない。 まして俺は社長だ。 私情を仕事に挟むのは蘭花が嫌う事。 分かってる。 だけど、少しだけ時間をくれ。 流れ落ちそうな涙を上を向いて留める。 「……蘭花…。」 ポツリと出る蘭花の名が虚しく部屋に響く。 目すら合わしてくれなかったな…。 そうだよな。 俺達、別れたんだもんな。
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