【右腕の男】

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『…竜兄。…少しの間…離れよう。』 ……何て言った? 今、蘭花は何を……。 想像もしていなかった。 蘭花の口から出た言葉に戸惑い、必死に嫌だと訴えた。 …でも、蘭花の目は真剣だった。 それでも受け入れられるはずもなかった。 ……俺が酔い潰れたから? 俺が情けない姿を見せたから? 蘭花は俺が自分のせいで潰れる姿が怖いと言った。 これから先、何かあったらお互いが駄目になってしまうと。 ……そんな事無い。 お互い愛し合っているのに離れる? 意味が分からない。 それ以上、蘭花の口から何も聞きたくなかった。 ベッドに潜り込み耳を伏せる。 『…竜兄。…明日、ちゃんと話そうね。おやすみ。』 話を聞かない俺に蘭花は呆れてるのだろうか。 結局、蘭花がベッドに来る事はなかった。 俺は一睡も出来ずベッドから起き上がった。 頭痛が酷い。 ……蘭花。帰ったかな。 薬を飲もうとリビングに入った。 …蘭花。ここで待っていたんだろうか。 寒いのに……。 『…おはよう。竜兄。…コーヒー飲む?』 いつもの優しい蘭花。 でも、また同じ事を言われるんじゃないかと思うと普通に出来ない。 素っ気ない態度の俺に水を差し出す。 ……俺って、こんなに不器用だったんだ。 どう接したらいいのか分からない。 薬を飲みソファーに凭れ目を閉じた。 蘭花が横に座ったのが分かった。 『…竜兄。…夕べの話だけど…。』 ……やっぱり。 「…無理だから。離れるとか俺には無理だから。」 無理に決まってる。 蘭花と会えないとか俺にはあり得ない。 それでも尚も話がしたいと言う蘭花。 俺の事、本当に嫌いになったんだろうか。 口に出して聞いてみた。 違うと蘭花は言う。 嫌いになるはずがないとまで言った。 じゃあ、何で? 何で好きなのに離れないといけないんだ。 蘭花は、自分達の愛は異常だと言う。 好き過ぎて愛し過ぎて、嫉妬や独占欲に支配されてると。 相手がいたら殺してしまうかもしれないと。 俺が死んでしまってら蘭花も死んでしまうと。 確かに。俺は蘭花が死んでしまったら後を追ってしまうかもしれない。 たとえ、死ななくても死んだも同然の様に魂の抜けた奴になるかもしれない。
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