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「近藤先生に一手指南して頂きたいって言う奇特な坊やですよ。生憎先生は出稽古に行って居られると申し上げた所、出直して来ると仰るものですから。今お見送りする所だったんです」
総司の言葉にも顔色はおろか眉一つ動かす事もなく、一は男にも折り目正しく一礼した。
「坊やって、てめぇと五十歩百歩じゃねえかよ」
男が苦笑する。
「此奴ァ口が悪くてな、許してやってくれ。俺は土方歳三。この男と同じ此処の門弟だ。師匠は確かに他出しているが、叉来るってんなら先に家の小者でも寄越せば良い。おめえ、武家者だろ?」
「それは・・・」
滑らかな頬に微かな赤みが差した。
「出来ません。私が直接伺ってはいけませんか?」
「・・・・・・ふぅん」
歳三は片方の口角だけを上げて笑った。
「どうやら家の者には内緒で此処に来たらしいな。何処の出かは聞かないでおくが、この道場だけは止めておけ。こんな三流道場で足腰立たない程ぶちのめされちまったら、てめえの名に傷が付くだけじゃ済まなくなるぜ?」
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