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「成程な・・・『解かった』」
耳許で低く囁かれ、肌が粟立つ。
振り払おうともがけばもがく程食い込んで来る歳三の腕にぐいぐいと躰ごと押しやられ、気付けば道場の粗末な門の死角へと追い込まれていた。
「何を・・・ッ!?」
「坊や」
落ち着き払った声。
表情を消した歳三の、漆黒の双眸がひたと一を見据えた。
「お前、人を斬ったな」
「・・・・・・いいえ」
「血の臭いがするんだよ。総司は誤魔化せても、俺は騙せねえ」
(何故、今そんな事を?それに騙すとは何だ・・・?)
「意味が解かりません。兎も角、この手を離して下さい」
「嘘は為にならねえよ。覚えてるんだろう、その掌(テ)に残った肉を、骨を断つ感触を。鉄錆びた血の臭いを、断末魔の叫びを忘れたとは言わせねえ」
(言うな・・・ッ!言うな、いうな、イウナ・・・・・・ッ!!)
「止めて・・・くれませんか」
「声、震えてるぜ」
身を捩ろうとした一の腕を背中側へと捻じり上げ、歳三は身を捩って抵抗する一の躰にひたと己の躰を密着させる。
腕の中で暴れていた一の動きが急に大人しくなった。
「・・・・・・だったら何だ?」
「ふん、認める気になったらしいな」
ばっと面を上げた一と歳三の視線が空中で交錯する。
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