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「それがてめえの本性って訳か、坊や」
「・・・・・・坊やなんかじゃない!」
そう、口にしながら
一は今、己がどの様な表情をしているのだろうかと思った。
見上げた瞳の中に、その己の貌が映っている。
怒りと、諦めと、それでいてどこか開き直ったようなふてぶてしい表情で目の前の男を睨み付けている、『子供』の貌。
「俺は・・・ッ」
「俺、と来たか。随分と猫を被ってるらしい」
「家ではその様に躾(シツ)けられた。猫を被っていた訳じゃない。それよりこの手を離せ!」
一の怒気を滲ませた声にも歳三は動じない。
寧ろ、より一層興味深そうに一を見返して来る。
「同じなんだよ、俺とお前は」
ーー其処には
漆黒の闇が、広がっていた。
光を拒むかの様に黒く塗り潰され、一寸先とて見えぬ筈なのに
一歩でも踏み出そうものなら忽ち奈落の底に堕ちてしまうに違いないと、そう、見る者に思わせるーー『闇』
視界を占領する闇に呑まれまいと、瞳に一層力を込めて睨み返す。
何時の間にか歳三の貌には笑みが浮かんでいた。
背筋が凍り着いてしまいそうに酷薄でありながら、見る者を虜にせずにはいられない魔性の笑み。
「奥底に同じ『モノ』を飼ってやがる」
耳からでは無く、頭の中に直接響くその囁き声は低く、そして甘く、全身を痺れさせる様に蠱惑的だ。
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