眉月(マユヅキ)

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この男は ・・・・・・『危険』だ 頭の片隅で警報が鳴っていると云うのに、躰を動かす事はおろか瞬き一つ出来ない。 息継ぎさえ儘(ママ)ならず、胸を喘(アエ)がせる。 飲まれまいと必死になればなる程、躰から自由が失われて行く感覚に一は生まれて初めて恐怖した。 (逃げなければ) 「逃がさねえよ」 まるで一の心を読んだかの様に紡がれる言葉。 「てめえには少々『躾』が必要らしい。精々頑張って抵抗するんだな」 熱い吐息と共に左の耳朶に触れた柔らかく、それでいてねっとりと絡み付く様な感触に、背筋を悪寒が走り抜けた。 「・・・ッ、嫌(ヤ)ッ!」 「黙れ」 有無を言わさぬ声に躰が硬直する。 その間も男の唇が、舌が一の耳朶を弄り続けた。 触れたかと思えば甘噛みされ 尖らせた舌先がちろりと耳の奥へと侵入し、湿った音が聴覚を犯す。 意識が朦朧として、膝から崩れ落ちかけ堪らず身を反らした一の耳朶を、尚も執拗に歳三は責め立てた。 「離せッ!何で、こんな事をするッ!?」 「・・・・・・何で、だァ?」 面倒臭そうに歳三は続けた。 「此処に来てえなんざ世迷い言、二度と言わせねえ為に決まってるだろ?」 「!?」 「言ったよな、お前は俺と『同じ』だと」 歳三の唇が首筋へと滑り降りて来た。
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