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「違わねえよ。剣はそもそも人を斬る為に存在(ア)る物だ。だから・・・」
力無く首を振る一の頤(オトガイ)に歳三のしなやかな、だが剣を握る男の物らしい骨ばった手が添えられる。
一の喉がひくりと鳴った。
「幾ら自問自答しても答えなんて出る訳がねえ。人を斬ってどう感じるかなんて斬った奴にしか判らねえんだからな」
「けど・・・ッ!それでも・・・・・・」
「怯えてんだろ?答えは当の昔に出ていても、そいつを認めるのが怖い。唯、それだけだ」
一層、濃くなり勝った闇が一の貌に降りて来た。
目を逸らす事も
瞬きも忘れ闇へと目を凝らす。
「そうやって、何時まで己を欺く?」
薄く開いていた一の唇を歳三は己の唇で無遠慮に塞いだ。
舌を割り込ませると容易く侵入を許したその内側へ、更に舌を絡めて行く。
互いの唾液が混ざり合い、淫靡な水音を奏でた。
「・・・・・・痛(ツ)ゥ」
不意に、歳三が美しく弧を描いていた眉を顰め一の唇を解放する。
その口の端を、赤い液体が一筋伝った。
「いきなり手加減無しに噛み付くたァ、てめえ餓鬼の癖に容赦無えな」
対する一は無言だ。
着物の袖で乱暴に口を拭いながら歳三を睨み付けた目許にうっすらと生理的な涙が滲んでいる。
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