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「てめぇと俺は『同じ』なんだ」
・・・・・・そう
あんたは俺に囁いた。
*****
『試衛館道場』
門に掲げられた看板を前に一人逡巡する人影に気付いたのは、この剣術道場の門弟である沖田総司である。
亜麻色の柔らかな髪を、この男好みである朱の組み紐で高く結い上げ、若草色の着流に脇差を差しただけの青年は何の躊躇も無くその人影へと歩み寄った。
道場破りだの、志士気取りの物取りだの
何かと騒がしいこの御時勢にあって余りに無防備過ぎる。
だが、この青年からは一切の迷いも、気負いや緊張感と言った感情も感じる事は出来なかった。
「ねぇ、君。もしかして道場破り?」
単純に道場破りかと聞いたのは相手が竹刀を背負っていたからだ。
初対面の相手に訊ねる内容にしては些か物騒に過ぎるが、これは総司と言う男の少々加虐趣味な一面に拠る。
この男は
天性の『剣客』だった。
剣を握らせて彼の右に出る者はこの道場に唯一人、天然理心流・四代目にして師匠でもある近藤勇以外には存在しない。
それすら、他人に言わせれば『総司は遊びで振っているから勝てないのだ』と言わしめる程で、つまる所この道場には最早総司の相手が出来る人間など一人として存在しなかった。
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