眉月(マユヅキ)

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「・・・・・・何やってんだ、総?」 「歳さん。そんなだらしない格好して、あんたの方こそ何やってるんだか」 振り返るなり態とらしく溜息をついた総司の前で、緩く纏めただけの黒髪を風に弄(ナブ)らせるがまま、藍の着流しを着崩した男は軽く肩を竦めた。 「てめぇ、口調がだんだん勝っちゃんに似てきたぜ。その内口ん中に拳が入っちまうかもな」 「止して下さいよ。先生は尊敬していますがね、あんなごつごつした岩みたいな顔になっちまったら歳さんみたいに遊郭で持て囃(ハヤ)されなくなっちまう」 「口の悪さは変わらねえな、この餓鬼が。男は顔じゃねえよ。勝っちゃんなんざ花街に行かせてみろ、毎度取り合いになって一騒動だ」 「何だ、そいつは見物だな。是非一度拝ませて下さいよ」 「俺は御免蒙(コウム)る。てめぇと一緒じゃおちおち遊んでもいられねえ・・・それで何だ、後ろの奴は?」 どうやら総司の影に隠れて、男の立つ位置からは一の姿が見えていなかった様だ。 その総司の肩越しに突出している竹刀に気付いた男はひょいとその向こう側を覗き込んだ。 「・・・・・・へえ」
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