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「違いないですね」
此方は声を立てて笑う総司と歳三を前にしても、顔色こそ変われ一の表情は変わらない。
「貴方がたは何故に御自身が学ばれて居られる流派や道場の名を斯様(カヨウ)に悪しざまに申されるのですか?」
「坊や」
その言葉にふっと笑いを収めた歳三が総司の前に出る。
総司は何も言わずに一歩退いた。
「この道場の噂も知らねえで立ち合いを希望して来た度胸だけは褒めてやる。だがな、ここは竹刀を振り回すだけの道場剣術を教える所じゃねんだよ。解ったらとっとと帰るんだな」
「・・・・・・噂は存じ上げて居ります」
一の唇から零れ落ちた言葉に、歳三は奥二重の涼やかな双眸を僅かに細める。
途端に
男女の区別無く相手を骨抜きにすると噂の、ぞくりとする様な流し目が一に絡みついた。
艶を含んだ視線は総司が人形と評した、中性的な貌をじっくりと品定めする様に移動する。
その間、無言。
「何か不審な点でも?」
大した時間では無かったが、一が放った非道く落ち着き払った言葉に、歳三ではなく総司が感嘆の声を上げた。
「凄いな、この坊や。歳さんのその眸(メ)を見返して声が裏返らない相手なんて、僕初めて見ましたよ」
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