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「なんだそりゃあ・・・俺は唯、坊やの台詞が本当かどうかを確認させて貰ってただけなんだがな」
「それ、本気で言ってるんですか?」
総司が呆れたように唇を尖らせた。
「評判ですよ。『歳さんの流し目に見つめられた日には天にも昇る心地がする』って、ね」
「・・・・・・どうにも縁起が悪い方にしか聞こえねえ噂だな、そいつは。まあ良いか」
歳三は総司との遣り取りを黙って聞いていた一から目を離さずに続けた。
「承知して来たってんなら俺や総司がどうこう言う問題じゃねえ。三日後に叉来い。俺から師匠に話を通しておこう」
「有り難う御座います」
一が無表情のまま頭を下げる。
「一寸、歳さん。勝手にそんな約束しちゃってどうするんです?近藤先生がなんと言うか・・・」
総司が冷ややかな口調で抗議を申し立てたが、歳三はどこ吹く風だ。
他人から役者の様だと評される端麗な貌に不敵な微笑が刻まれる。
その表情を目にした途端、総司はふんと顔を背けた。
「もう!何を企んでいるか判りませんけど、どうぞご勝手に。僕はどうなったって知りませんからね」
「勝手にするさ」
その言葉に、今度は舌を突き出した総司が軽やかに身を翻す。
丈長い亜麻色の髪が弾む様を怪訝そうに目で追っていた一は、不意に左腕を取られ咄嗟に身を引こうとした。
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