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「池口さんが来てくれたから安心です。良かったぁ。」
彼女が何気なく言うその言葉を一人の男として聞きたいよ。
彼女にそんな気持ちは微塵もなく、経理部の仲間としての発言であることは間違いない。
それなのに、わずかな期待を込めて聞いてしまう。
「俺のこと、待ってた?」
「当り前ですよ!居てくれないとと大変です!」
…居ないと大変…
……仕事がね。
わかってたはずなのに、その答えに心の中でがっくりきながらも、なんとか彼女に笑顔を向ける。
それから彼女がコーヒーを入れてくれて、俺は机に向かう。
始業までに今日やるべきことを確認しておきたかった。
しばらくして市川と部長も出社すると、彼女は何の迷いもなくチョコレートを俺からだと言って差し出した。
…彼女に…あげたんだけどな。
その場ではしゃいで市川が一つ口に放り込む。
チョコレートを転がす口元は、ただチョコレートが美味しそうに思えるだけで何も感じなかった。
俺はさっきの彼女の口元を想像して、また妙な気分になる。
今日の俺はおかしいのか?
邪念を振り払おうと思ったが、案外それはしつこく頭から離れなかった。
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