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「なにいってんだよ。こいつは模擬戦だ。誰も死なないし、怪我(けが)もしないんだぞ。進駐官のお偉方(えらがた)が亀みたいに陣地にこもってるガキの戦闘なんて見たいと思うか。派手(はで)に戦うのが、養成高校の伝統だろうが」
カザンの意見にも一理あった。勝敗も大切だが、半分は夏季総合運動会の出し物である。客を楽しませるエンターテインメントも欠かせなかった。テルが低い声でいった。
「そのとおりだ。ここでいいとことを見せておかないと、おれたちの実力をお偉方に売りつけることもできない。華々しく戦うべきだと思う。おれたちの今後のためにも」
タツオは空を見あげた。夏の青空には噴(ふ)きあがるように積乱雲が浮かんでいる。ここで3組が勝とうが負けようが、この世界はなにひとつ変わらない。人間の戦いなど、あの雲ひとつ動かせないのだ。
「わかった。45分間の戦闘を半分に分けよう。前半の25分間は耐えて守る。後半の20分は攻め抜く。ジョージとカザンは10人ずつ連れて、突撃隊を組んでくれ。自分の使いやすい副官を選んでくれ。4分隊で敵を攻める」
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