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 夏の日ざしが傾き始めた午後3時、戦闘開始の花火が東島(とうとう)進駐官養成高校の上空にあがった。見事な三尺玉が白い菊の模様を散らしていく。タツオの3組は全員が塹壕で息をひそめた。前半は耐えて、兵の損耗(そんもう)を最小限に抑える作戦だ。精密射撃の得意な生徒にだけ、敵塹壕への狙撃を命じている。  ひゅん、ひゅんと敵の突撃銃の音が頭上を飛んでいく。腹にずしりと響くのは、各クラスに3丁配布された狙撃銃の低音だ。模擬銃なので実際に銃弾は発射しないが、3次元音響のサウンドシステムが競技場には設置してある。銃声は本物と変わらなかった。  腰ほどの深さの塹壕に身を潜めて、双眼鏡を使う。真っ先に敵の変化に気づいたのはジョージだった。 「タツオ、塹壕に動きがある」  無防備な兵士がふたり、こちらに身をさらしている。塹壕の右端だ。どういうつもりだろうか。カザンが狙撃兵に命令した。 「狙え、照準確定後、各自撃て!」
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