駆け落ち

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空調の音が頭上で響いている。 ……少し肌寒い。 私は備え付けの毛布を月にかけた。 この時期のバスの中は、思ったより冷え込むのだ。 そして、そのまま私もゆっくり目を閉じた。 ……翌朝。 バスの中でアナウンスが流れると、目を覚ました。 「――おはよ!」 と月が満面の笑みを浮かべて、そっと顔を近づけてきた。 そして軽く唇が触れる。 昨夜のような悲しい表情は、そこにはない。 「もう、恥ずかしいわよ……誰かに見られちゃうでしょう?」 「いいよ。だってもう、邪魔者はいないから……」 「バカね」 ……でも嬉しい。 彼の放った、“邪魔者” というその言葉。 二人きりなのだという事を、実感させてくれた。 ――… それから、まもなく高知駅のバス降り場に到着。 私達はゆっくりとバスから降りた。
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