駆け落ち

8/35
前へ
/35ページ
次へ
「……くっ……やだ、もう……」 さっき触れてきた痕を消すように、服の袖で何度も唇を拭った。 雨が刺すように髪の毛を叩いてくる。 ポタポタとそこから雫が落ち始める。 そのままアパートの階段を上った。 ヒールの音が、コツコツといっている。 階段もかなり濡れていて滑りそうになってしまう。 そして階段を上りきったところで、私は部屋の前に視線を送った。 その視線の先…… 「っ!」 部屋の前に、人影があったのだ。 その瞬間、私の足はその人物目掛けて走り出していた。 全身がずぶ濡れで、ボストンバッグだけを手にしている彼…… 「……なっ、……何してるのっ……っ」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

480人が本棚に入れています
本棚に追加