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パックから取り出した不揃いなイチゴ。これは前の日に青果店のおじさんから買ったもの。ヘタを果物ナイフで切り取って、小さな器に入れてあげる。 「寒くない?」 『ちょっとね。でも遥が来てくれると、温度が上がるんだよ』 そんなバカな。 はぁ、と息が白くなる。真っ赤なイチゴをひとつつまんで口の中に入れてみた。 甘くてちょっと酸っぱい、亜紀と一緒に食べたイチゴの味がした。 「亜紀、そろそろ行くね」 『ぇえーっ!もうちょっといいじゃぁん』 「仕事行かなきゃ」 『もうちょっとだけ!ね?』 「……うん、ってうなずきたくなっちゃうね」 もうちょっと、あと少しなら、あと一分だけ……。 そんな事をしてたら、私、ここから動けなくなる。 「イチゴ、食べていいよ。私は食べたから」 手早く片付けを済ませて立ち上がる。のろのろやってたら、行きたくなくなってしまうから。 亜紀に背中を向けた私はお別れの挨拶もないまま歩き出し、晴れ渡った空を見上げて涙を飲み込んだ。 私のあとに、あそこに誰かが来ていたなんて思いもせずに、timeへ足早に向かう。
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