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コトリ、とカウンターテーブルにカップが置かれる。 真っ白な受け皿に、真っ白なカップ。そして真っ白なクリームがたっぷりと乗った、暖かそうな一品。が、ふたつ。 「遥ちゃん、サービスだよ。すみれちゃんも好きなんだ」 店長がニッと白い歯を見せて笑う。私がカップを見つめていると、もうひとつのカップをすみれさんが持ち上げた。 「生クリームのせココアよ。わたし、これが一番好き。同じ時間に同じ人間はいなくても、同じものが好きっていうのは、アリだと思うのよね」 すみれさんは、ふわっと微笑んでカップに花びらみたいな唇をつけた。私の鼻は、甘いココアの香りじゃなくて、草原に咲いた薄紫の菫の花の香りを感じ取っているようだった。 ひとくち、またひとくち。 「……私も、これ好きです。すみれさん、元気な赤ちゃん……産んでね」 「もちろん!名前はここあちゃんだから、よろしくね」 カウンターの奥で、店長が「えっ!?」と驚いていて、笑えた。
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