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駆け出す直前に、倒れた椅子を直して行ったのには驚いた。 「夏海ちゃん、大丈夫だった?」 私は沈黙していた夏海ちゃんの肩に触れる。すぐに「大丈夫です!」と笑っていたけど、顔色が少し悪かった。 「お酒のニオイ、凄かったですね……気持ち悪いです……」 「年末だからね、色んなお客さんが来るもんだとは思ってたけど、ちょっと困っちゃうお客さんだったね」 ため息を吐いた私は店長に向き直ると「ありがとうございました」と助けてくれたお礼を言う。しかし、店長はどこか不満気な顔をしていた。 「どうしたんですか?」 「いやさ、ずいぶん酔っ払ってたからね、冷たいお水でも出して少し酔いを覚ましたらどうかなって思ったんだけど……」 どうやら店長は、さっきのお客さんを追い返すつもりはなかったようだ。 「店長……」 本気でしょんぼりしているいい人すぎる店長に「お会計、お願いします」とレジの前で待っているお客さんを見て背中を押した。 「あんなお客さんもいるのねぇ」なんて困り顔をするお客さんには私みたいな若者の言葉よりも、いい人過ぎる店長の言葉が一番良いような気がした。
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