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さらにくすっと笑って立ち上がったすみれさん。細い指が私の頬に触れた。 「今、15時。同じ時間に同じ場所にいても、同じ人間はいないわ。いくら同じ接客をしても、わたしはわたしだし、遥ちゃんは遥ちゃんでしょう?」 すみれさんの細い指が私の目からこぼれる涙の粒を、すくう。 「喫茶"time"には、同じ時間はあっても、同じ人間はいないのよ。遥ちゃんだけの、素敵な接客でお客様をお迎えしてあげてね」 「すみれさんは、私がこうなったから……辞めるんですか……?」 間違ってしまった?私のせいで辞めちゃうの?私が自分を責めかけた時。すみれさんは今までと違う、カラッとした笑顔で言った。 「ううん。妊娠したから」 涙はピタリと止まって、息をするのも忘れてしまった。 「子供が産まれて、手がかからなくなったらまた戻ってきてもいいかなっ。その頃まだ店があればいいけど」 そう笑うすみれさんはとても元気で、強くて、やっぱり……素敵だった。
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