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私は、初めて彼の目を見つめ返した。
「私だって・・・・そんな・・・・つらい恋くらいわかります。・・・・片岡さん、私のこと、子供扱い・・・・し過ぎです」
一生懸命言ったのに、彼はごめんごめん、と呟きながら、また笑った。
<航目線>
彼女に優しくしてあげたい、喜ばせてあげたいと思うこの気持ちは恋なんかとは違う。それはもっと大きな、守ってあげたいと思うような、そんな感情だ。どちらかというと親みたいなもんだ。
彼女の小さな手を取って歩きながらずっと、そんな言い訳を考えていた。
人を好きになることは、もうできないような気がしていた。後悔するような愛し方しかしかできない自分はきっと誰かを傷つけるだろう。そして自分も傷ついて、ひきずってまた臆病になる。
子供扱い・・・・し過ぎです。と彼女に言われて俺は笑ったけど、大人だからよけいに、忘れてはいけないことがあると思っていた。
彼女はすごく若くて、その目線の先にはきっと未来しかない。まるで明日を信じてすべてを賭けたジュリエットのように。
そしてその手を取ることのできるロミオは俺ではない。
子供扱いしていないと、そんな簡単なことすら忘れてしまいそうになる。
たぶん彼女が抱いている、年上の男に対する「憧れ」のようなものには気付かないでいるべきだった。それはきっと、少し時間が経てば醒めていく、熱のようなものだから。
ごめんね、凪ちゃん。
俺はどうしても過去から歩き出すことのできない、情けない男なんだ。
大人でいるってわりと、難しいことなんだよ。
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