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彼は、私の瞳をじっと見つめて言った。
「澪は・・・・・・・稲葉澪は・・・・・・・俺が昔、好きだった人だよ」
やっぱり、という声が心の中で響いた。
「今でも・・・・その人が、好きなんですか・・・・?」
彼は静かに首を横に振った。
「俺は、彼女がとても好きでプロポーズしたんだけど、彼女は他の男を選んだ。それだけのことだ・・・・・・。その後俺は異動になって、2年経って・・・・ここに来た」
彼はとても穏やかに言葉を紡いでいた。
「彼女には、誰よりも幸せになってほしい。笑っていてほしいと思ってる。それは、今でもね」
私は彼をまっすぐ見ていた。彼のその言葉は、今でも愛している。と言っているように聞こえた。
私は目をそらさずに言った。
「それが本当なら・・・・じゃあ片岡さんは何故、そんなに悲しそうな顔をしてるんですか?」
え?と彼は怪訝な顔をした。自分で気づいていないということが、何よりその証拠だ。
「今でも好きだ・・・・って顔に書いてあります」
片岡さんを睨んでいないと、涙があふれてきそうだった。
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