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<航目線>
俺は動揺していた。
「今でも好きだ・・・・って顔に書いてあります」
そう彼女に言われて、情けないほど動揺していた。
認めてはいけないと思ったけれど、言葉を継げない俺はそれだけでもう、彼女に屈服していた。
「凪ちゃん・・・・・」
彼女は目にいっぱい涙をためて俺を見ていた。何故泣くんだろう。君が俺のために泣くことなんてないんだよ。
本当にひとつも。
俺は稲葉のこと、きちんと忘れようと思ってるんだ。俺は稲葉のこと、もう何とも思ってないんだ。
何を言っても見抜かれる気がしていた。そして何を言っても嘘のような気がしていた。
「おやすみなさい」
彼女はそう言って背中を向けた。俺は黙ってそれを見送った。
俺は大人で、彼女は子供だったはずじゃないか。今までも、これからもずっとだ。
だから俺たちの間の距離は縮まってはいけない。
そんな言い訳は通用しないけれど、愚かなことに今は、自分の心の揺れさえ止めることができなかった。
俺のどこが大人だ・・・・・。
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