第1話

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『そこの角の、アルカーデってトラットリア行ったことある?』 『ああ・・・斉藤とこの間、ランチに行きましたよ』 ダニエラは嬉しそうだった。 『そう・・・店を入ったところに絵があるのを知ってる?』 『ええと・・・確か大聖堂と天使の』 NO、NOとダニエラは笑った。何がそんなに楽しいんだろうか。 『天使はあなたに代わってるの。しかも煙草を持ってるのよ』 『え?』 ダニエラはいたずらっぽくウィンクした。 『行って、見てきたら?ただし、夜にね』 意味がわからなかったけど、早速その夜に斉藤を誘って店に行ってみた。 「うわ、ホントにこれって・・・間違いなく先輩ですね」 斉藤に言われるまでもなく、大聖堂と天使の絵は、確かに煙草を持って佇む、俺に似た男のスケッチに代わっていた。 「何だ、これ・・・・・?」 驚いて声も出ない俺を引っ張ってテーブル席につくと、声をひそめて斉藤が言った。 「あれ・・・って確かアルバイトの女の子が描いてるって話でしたよ。今・・・・いないけど」 店を見回して斉藤はしたり顔だ。 「何で知ってるんだ」 「だって何回か来ましたもん。彼女は夜しか働いてないんです」 「え?・・・俺、会ったことある?」 「先輩、夜来たことないじゃないですか?しかも会ったら忘れませんよ。ナギちゃん可愛いから」 「・・・・日本人なんだ」 「そうです!」 何で斉藤が得意気なのかは別にして、俺はもう一度絵の前に戻り、通りかかった店員の青年に、 『この絵を描いた人に会いたい』と伝えた。 彼はまじまじと俺を見つめて、絵に目をやり、もう一度俺を見て、にっこりと微笑んだ。 『わかりました』 何だ、どういう意味だ。何か意味ありげなのは何故だ。 俺は戸惑いつつ、スケッチをもう一度眺めた。これは、どこの風景だろう。でも何故俺なんだ・・・・?しかも俺が煙草を持ってるって・・・・。 絵の隅にあるサインは「nagi」 たしかナギ・・・・・って。 そこまで考えた時、背中から小さな声がした。 「あの・・・・お待たせしました。お呼びでしょうか・・・・?」 「この絵は・・・・俺?」 と言いながら振り向いた俺は、どきりとした。 俺を見て、言葉をなくしている少女は、白い肌に黒曜石のような大きな瞳がとても印象的だった。そしてその瞳は驚きのあまり、怯えているように見えた。
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