102人が本棚に入れています
本棚に追加
『そこの角の、アルカーデってトラットリア行ったことある?』
『ああ・・・斉藤とこの間、ランチに行きましたよ』
ダニエラは嬉しそうだった。
『そう・・・店を入ったところに絵があるのを知ってる?』
『ええと・・・確か大聖堂と天使の』
NO、NOとダニエラは笑った。何がそんなに楽しいんだろうか。
『天使はあなたに代わってるの。しかも煙草を持ってるのよ』
『え?』
ダニエラはいたずらっぽくウィンクした。
『行って、見てきたら?ただし、夜にね』
意味がわからなかったけど、早速その夜に斉藤を誘って店に行ってみた。
「うわ、ホントにこれって・・・間違いなく先輩ですね」
斉藤に言われるまでもなく、大聖堂と天使の絵は、確かに煙草を持って佇む、俺に似た男のスケッチに代わっていた。
「何だ、これ・・・・・?」
驚いて声も出ない俺を引っ張ってテーブル席につくと、声をひそめて斉藤が言った。
「あれ・・・って確かアルバイトの女の子が描いてるって話でしたよ。今・・・・いないけど」
店を見回して斉藤はしたり顔だ。
「何で知ってるんだ」
「だって何回か来ましたもん。彼女は夜しか働いてないんです」
「え?・・・俺、会ったことある?」
「先輩、夜来たことないじゃないですか?しかも会ったら忘れませんよ。ナギちゃん可愛いから」
「・・・・日本人なんだ」
「そうです!」
何で斉藤が得意気なのかは別にして、俺はもう一度絵の前に戻り、通りかかった店員の青年に、
『この絵を描いた人に会いたい』と伝えた。
彼はまじまじと俺を見つめて、絵に目をやり、もう一度俺を見て、にっこりと微笑んだ。
『わかりました』
何だ、どういう意味だ。何か意味ありげなのは何故だ。
俺は戸惑いつつ、スケッチをもう一度眺めた。これは、どこの風景だろう。でも何故俺なんだ・・・・?しかも俺が煙草を持ってるって・・・・。
絵の隅にあるサインは「nagi」
たしかナギ・・・・・って。
そこまで考えた時、背中から小さな声がした。
「あの・・・・お待たせしました。お呼びでしょうか・・・・?」
「この絵は・・・・俺?」
と言いながら振り向いた俺は、どきりとした。
俺を見て、言葉をなくしている少女は、白い肌に黒曜石のような大きな瞳がとても印象的だった。そしてその瞳は驚きのあまり、怯えているように見えた。
最初のコメントを投稿しよう!