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「どうして、謝るんですか」
「急にこんなことをしてしまって。ごめんなさい」
「謝らないでください」
おれは急に心細くなった。
まるで先生から怒られている子供のように、急に悲しくなった。
「謝らないでくださいよ」
先ほどから繰り返される、予想にしていなかった出来事と、しばらく西さんとの会話でだんだん頭が回ってきた。
それに伴って今起きている状況を把握することもできた。
「起きていいですか」
言うと、西さんはおれの上から離れた。
おれは身体を起こし、西さんと少し離れて座った。
西さんを見ると、うなだれて気まずそうにしていた。
状況は把握できたのに、この後どうすればいいのかわからない。
しばらくお互いに無言が続いた。
「あの」
おれが口を開くと、西さんが身体を強張らせるのがわかった。
「西さん、さっきしたことって、その、あれですよね」
「はい」
振り絞るような声で、答えてくれた。
「なんていうか、ぼく、こういうの初めてで、その、なんて言えばいいのかわからなくて」
「ごめんなさい」
どうやってこの場を収めればいいのかわからずに、おれは途方に暮れた。
「ごめんなさい」
西さんはもう一度謝った。
その言葉に、おれの中の何かが吹っ切れた。
「もう謝らないでください。過ぎてしまったことです」
言うと西さんはおれをまっすぐに見て、
「ぼくの中では、始まったことなんです」
はっとした。
言葉が出てこない。
「ずっと、好きでした。一緒にいられるだけで幸せでした。一緒に年越しが出来て、本当に嬉しかったんです。本当はこんなことするつもりじゃなかったんです。ぼくの気持ちは伝えるつもりもありませんでした。でも、やっぱり好きで、我慢できなくて」
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