大晦日

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気持ちいいような、ぼーっとした頭で今何が起こっているのか確認しようと、薄く目を開ける。 西さんがおれを見ていた。 目が合う。 何か喋ろうと思って、口を開く。 指が遠慮がちに、けれどもしっかり、確実に、意思を持って、おれの口に入ってきた。 何か喋ろうと思ったのに、言葉は出てこなくて、ただ、指を招いただけになった。 んっ、と声を出すと、今度は指が口の中で動いた。 人の指を舐めたのは、いつ以来だろうとか考えた。 目を閉じる。 指が口から離れて、おれの涎で濡れた指がそのまま唇を触る。 唇に、指よりも、柔らかい感触があたった。 唇だと思った。 西さんの唇があたっているんだと思った。 なにやってんだろう、頭の奥がじんとして、うまく思考が回らない。 唇の間から、舌が入ってきた。 受け入れる。 くちゅくちゅという音が頭に響く。 なんだろ、これ。 気持ちいい。 そのまま頭を持たれ、西さんの身体から離された。 すぐ傍にあった温もりが無くなって、肩が冷たくなる。 床に寝かせられて、背中にごつごつした感触がある。 瞼の裏で感じていた明るさが無くなったと思ったら、また、唇に唇が重ねられた。 嫌な感じはしない。 おれもしなくちゃと思って、今度はおれから舌を出した。 深く、もっと深くって感じで、西さんがおれのなかに入ってこようとしているらしく、髭があたってちくちくする。 そっと、手を西さんの頭に回す。 撫でてあげた。 ふっと顔が離れて、おれは薄目を開けた。 西さんの顔があった。 なぜか、困った顔をしていた。 わけがわからなくて、おれも困った顔をした。 「ごめんなさい」 その言葉が誰から誰に向けられているのかを理解するのに少し時間が必要だった。 宙を舞った言葉はおれの中に入っていく。 おれは西さんの顔を両手で包んだ。
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