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玄関を開けると野良猫に餌をあげ終えたおばちゃんとすれ違った。
「いってらっしゃい」
おばちゃんはいつも笑顔だ。
「いってきます」
おれも笑顔で返す。
庭を覗くと猫たちが必死に餌を食べていた。
かわいい。
その中の一匹に手を伸ばし、軽く頭を撫でてやる。
「にゃー」
猫たちにもいってきますの挨拶を終わらせ、自転車で駅までの道を漕いで行く。
百貨店で働いていて便利だと思ったこと。
駅直通であること。
おれの勤務しているのは地方の私鉄百貨店だ。
電車に乗ってしまいすれば暑さ寒さとはあまり関係なくなる。
職場に着くと、すでに副店長の永森さんがパソコンの前で開店準備を始めていた。
「おはようございます」
おれが言うと、
「うーす」
と短く返事が戻ってきた。
「掃除機かけますね」
おれが奥のバックヤードから掃除機を取り出すと、
「ちょ、その前にタバコ吸いに行かね?」
カウンターに片肘をつきながら永森さんが言う。
うちの職場にはおれも含めて5人いるのだが、5人全員が喫煙者という、今のこのご時世には珍しい状況にある。
そのため、基本的にタバコだけは定められた休憩時間以外でも店舗が閑散としていれば行って良いことになっている。
暗黙ルールだ。
「あーまじこの正月のセール前が一番めんどくさいわ」
永森さんは喫煙室までの階段を下りながら言う。
「ですね、冬物商品ってかさばるし、定番商品以外ほぼすべてセールになるからタグ貼りしんどいっすよね」
喫煙室にはおれら以外誰もいなくて、永森さんの吐く煙がため息に聞こえる。
「今日セールのアウター類が大量に届くらしいからさ、裏でタグ貼りしててくれる?」
思い出したように永森さんが言った。
「わかりました」
そのためにわざわざ動きやすい恰好で来たのだから、なんなら一日中裏で作業してたって構わない。
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