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その日はいつものようにセール準備に追われ、例年のごとくお客さんもまばらで、店長は予定よりも順調なセール準備に嬉しそうで、いつものように、いつものように、退勤して家路についた。
それから大晦日、すでにセールの準備は終わり、スタッフ全員で百貨店が閉店してからささやかな乾杯をして、互いに、よいお年を、と言い合って別れた。
西さんに仕事が終わった事を電話すると、
「あ、ぼくも今駅にいるんで、すぐ合流できますよ」
とのことだったので、
「じゃあ駅前のロータリーで待ってます」
「わかりました」
駅前のロータリーはすでに人がまばらで、寒さが骨に沁みる。
手先の感覚がすぐに薄れてくる。
鼻先が痛い。
温かいものが食べたい。
ロータリーにあるイルミネーションを写メっていると、後ろから声をかけられた。
「すみません、待ちましたか」
走ってきたのか、西さんが少し息をあげていた。
「いえいえ、ぼくもちょうど来たところなんで大丈夫ですよ。西さんこそ、結構待たれました?」
「いえ、ちょっとぶらついてただけなので」
「そうですか、よかった」
おれらは先に年越し蕎麦を食べに行こうということになり、近くの蕎麦屋へ向かった。
「結構混んでますね」
店に着いた頃は夜の9時をすこし過ぎたあたりで、それでも店の外には結構な人が入店を待っていた。
「ですね」
おれは外でお客さんの整理をしている人に、何分くらい待つことになりそうは聞いてみた。
「んー、ちょっと今混んでるんで、あと30分ま待ってもらわないといけないと思います」
それを西さんに伝えると、
「どうしましょうか、結構寒いですよね」
寒い。
雪こそは降っていないものの、大晦日の夜、店先には一応ストーブが置いてあるものの、その効果もむなしく全く暖かくない。
「待つしかないですかね」
おれが仕方ない感じで言うと、
「もし嫌じゃなければうちで蕎麦食べますか」
「えっ」
「あ、いや、うちここから結構近くなんですよ。なので、この時間だったらまだスーパーも開いてますし、そこで買ってうちで食べた方が早いかなって」
「お邪魔してもいいんですか」
「お嫌じゃなければ」
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